亀田郷の湿地帯 農民たちによって生み出されました
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亀田郷は、日本屈指の大河,信濃川と阿賀野川と,これを結ぶ小阿賀野川に囲まれた地域で,かつては広大な低湿地帯でした。人々はこの地を地図にない湖「芦沼」と呼びました。
地図にないのは,この湖がこの地の農民にとって農地だったからです。ここで暮らす農民は,水底に没した農地を少しでも浅くするため,寸暇を惜しんで水路から鋤簾で泥を掘りあげ,舟に積み,農地に運び込みました。
田植えの季節の,まだ冷たい泥水に腰や胸まで浸かり,泥の中を泳ぐようにして苗を植え,収穫の季節になれば,すっかり冷たくなった泥水に腰まで浸かり,稲を刈り取っては小舟に積み,運搬していました。
繰り返し訪れる水害や,海から遡る塩水のため,ようやく実りを迎えた稲が腐ってしまうことも度々でした。そのような時の農民の悲しみには計り知れないものがあります。それだけに収穫の喜びも,またひとしおであったに違いありません。
作家,司馬遼太郎氏は亀田郷の米作りを「農業というものは日本のある地方にとって死に物狂いの仕事の連続であったように思える」と「街道を行く~潟のみち」で紹介しています。
亀田縞は,このような過酷な米作りを支える農作業着として,私たちと同じように日々の暮らしを精一杯生きた農民たちの,喜びや悲しみを包み込み,大地の恵みのなかから生まれたのです。
昭和23年、当時東洋一の排水能力を誇る栗の木排水機場が完成し運転が開始されると,水没していた田は乾田となり亀田郷の農地は豊かな恵みをもたらすようになりました。亀田郷は新潟市の中心に位置し,今では信濃川と阿賀野川の豊かな水の恵みを受けた広大な美田が広がる地域となりました。
江戸時代,元禄九年,木綿織(後の亀田縞)が生産開始とされています。当時,和綿栽培の北限となっていた亀田を中心とする農村地域で,冬場の内職で農家の自給用として織られるようになりました。
中谷内新田(後の亀田町)は水深く,米の生産に適さなかったことと,新潟湊と内陸との交通の要衝であったことから,元禄七年に六斎市を開くために埋め立てられ,亀田の町が誕生しました。木綿織はその二年後に生産が開始されたことになります。
寛政年間に木綿織が亀田に運ばれ、売られたのが「亀田木綿織」の最初とされます。その後、亀田縞を織る農民はそれぞれの取引で問屋へ製品を持参し、問屋は消費地の仲買人や亀田の六斎市で販売していたとされます。徐々に農家と問屋の系列化による問屋制家内工業の仕組みができていきました。
亀田縞の生産は明治後期から大正年代にかけ最盛期を迎えます。この時期には工場制手工業を主体とした織業が主体となり,家内工業を含めた600を超える綿織業者と染色などの関連業者による660業者で構成される産地となりました。高品質化と均一化のための組織が設立され,製品は北海道や東北に販売され,亀田縞は亀田町の近代化を支える地場産業となっていました。
しかし昭和に入ると汚れに強く丈夫さが第一の農村衣料の需要は激減し,昭和13年からは戦時指定生産によって綿糸の入手が困難となり,亀田縞の歴史は幕を閉じることとなります。
亀田が織物の町であったことを知る人もほとんどいなくなった平成14年,亀田郷資料館に保存されていた亀田縞の布と見本帳が見つかったことから,産地に残った2軒の機屋によって亀田縞復活の取り組みが始まりました。
復活する布が目指したのは,亀田縞の持つ素朴であたたかい風合いと丈夫さの再現だけでなく,しなやかさを追求し,現代生活の中で使い続けてもらえる生地とすることでした。
亀田縞の伝統の風合いを再現するには、糸そのものの特性はもとより、織り込み方や染色法、仕上げ工程まで徹底的に研究する必要がありました。
布を構成する糸一本一本の分析からはじまり、強さと質感を再現するための最適な素材の探求に加え、織り方や織り込む密度の徹底的な試験の繰り返し、伝統的な縞の特徴を再現する染色手法など、執念ともいえる研究と試験を積み上げます。そして平成17年、亀田縞は伝統の素朴であたたかな風合いと、長く使い続けることのできる丈夫さとしなやかさを兼ね備えた布として復活させました。
地域団体商標登録5661445号
亀田地区で生まれた伝統織物,亀田縞をたくさんの人に知ってもらい,日々の生活に使って欲しいという想いから,復活から4年間,国内はもとより海外展示会への積極的な出展が継続されました。
生産者のたゆまぬ努力により,布地の品質の高さと伝統の風合,多様で美しい縞柄が注目を集めるようになり,平成21年に厳しい審査を経て地域団体商標を取得し,新潟市江南区亀田地区の特産品となりました。
地域団体商標は,地域名と商品が一体をなし,地域産品として一定の知名度があり,その地域と密接に関連している商品として厳しい審査基準を満たしたことを示す商標です。